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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(オ)532号 判決 1959年4月15日

上告人 田村商事こと田村久吉 外一名

被上告人 国

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

上告人両名の上告理由(一)について。

建物は、その敷地を離れて存在し得ないのであるから、建物を占有使用する者は、おのづからこれを通じてその敷地をも占有するものと解すべきである。本件において、原判示郵政用地は、訴外社団法人土木建築材料協会が、その上に原判示建築資材展示場を建築してこれを占有し、右建物の中、上告人等が占有使用する部分に該る敷地は、上告人等も亦これを占有して居るものとなさざるを得ない。したがつて、原判決が訴外協会において右郵政用地の使用権を喪失した旨判示している以上、原判示建物の中所論部分に該る敷地も亦、上告人等の不法に占有するものとなすべきは当然である。されば、被上告人の上告人等に対する、原判示建物中それぞれの占有部分よりの退去及び原判示郵政用地中右占有部分に該る敷地の明渡請求を認容すべきものとした原判決は正当であつて、原判決に、所論の如き違法はない。

論旨は理由がない。

同上告理由(二)について。

所論(一)、(二)及び(四)の諸点は、被上告人に権利の濫用があるとする上告人等の主張を正当とする理由とはならない。また、所論(三)の点は、原審事実認定に添わない上告人等独自の見解であり、論旨後段の事実は、原審において主張判断がないのであるから、いずれもこれを以つて右権利濫用の主張を正当となし得ない。したがつて、この主張を排斥した原審の判断は適法であつて、原判決に所論の如き違法はない。

諭旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 石坂修一 島保 河村又介 垂水克己)

上告理由

原判決は民事訴訟法第三百九十五条第六号の判決理由に齟齬ある場合に該当し破棄せられるべきものである。

(一) 第一審判決主文によれば

「被告等(上告人等)はそれぞれ原告(被上告人)に対し別紙目録記載の建物部分から退去してその敷地を明渡すべし」

と判示せられて居り右判決の趣旨は換言するなれば

(イ) 右建物部分からの退去

(ロ) 右建物の敷地の明渡

の両者が上告人等に対し請求せられているものである。

然しながら判決理由自体からも明白である如く本件建物の所有者は社団法人土木建築材料協会であり上告人等は右協会から右建物を賃借して右建物を占有しているものである。処が右敷地を占有しているのは右建物の所有者たる右土建協会であるから右敷地を現実に建物収去の上で明渡すことの出来るのは右土建協会であつて上告人等ではないのである。従而上告人等として為し得ることは右建物からの退去明渡であつてその敷地の明渡ではない。然るに第一審判決は(原判決も之を踏襲している)前記の如く上告人等に対して右建物の敷地の明渡をも求めているのであるから此の点に於て原判決には理由齟齬の違法ありと謂うの他はない。

(二) 次に上告人等は第一審以来、被上告人と前記土建協会とは意思相通じて通謀の上で故らに本件土地につき右土建協会は何等の占有権限なきかの如く主張し、又他方答弁しているのであるが右は全く仮装のものに過ぎない所以並に本件請求が権利濫用である点を力説主張して来た次第であるが原判決は上告人等の主張は之を認めるに足る証拠がないとして之を斥けているが既に主張して来た如く

(一) 土建協会の代表者たる佐藤四郎と郵政省の土木建築部長とは親子の関係にあつた事実

(二) 本訴請求の前頃迄には被上告人は既に昭和二十二年当時から本件建物を占用している上告人等に対し何等その主張の如き内容の約定あることを通告したこともない事実(本件現場は名古屋市に於ける最も繁華なる広小路に面しているものである)

(三) 前記(一)記載の如き事実関係に基き本件土地の使用関係は前記佐藤四郎親子の暗躍に因り極めて強力な権限を土建協会に対し与えられていたものであつて被上告人が主張している如き簡明なものではない事実

(四) 又右土建協会は、被上告人の所謂使用許可の取消されたる後である昭和二十六年六月六日に本件建物の一部の極めて狭隘なる部屋を権利金拾万円という多額の金員を取つて協和不動産株式会社に賃貸している事実等に照らせば上告人等の主張を肯認し得るにも拘らずこと茲に出でずして原判決を為しているのであるが此の点については更に左記事実をも考慮せられるなれば一層上告人等の主張が根拠充分なることが分明すると思う。

即ち土建協会は最初建築資材展示場(通称建材会館)を建設して敷地を使用して来たのであるが昭和二十三年十一月十日土建協会の代表者佐藤四郎はその息子たる当時の営繕課長佐藤亮(当時の係長は平岩某である)等の交渉の結果、本件土地に仮称中央建材会館なる名称の七階建鉄筋コンクリートのビルを建築しその一階は郵政局が使用しその郵政局の支払うべき部屋代は敷地の地代と相殺することとしその余は凡て中央建材会館で使用することゝし建築費は凡て中央建材会館がもつとの約定が成立し昭和二十四年六月八日には右中央建材会館のビルの青写真も出来たので(別紙添付の青写真及び完成図御参照)それを右佐藤亮や平岩某にも手渡つている次第であつたがその後に至つて俄に被上告人側はその敷地の南半分の方を電信電話局の敷地として提供するに至つたのでその方の敷地の使用者等に対しては夫々相当の移転示談金を呈供して解決を計つているのである。即ち此のことは被上告人としても本件土地の使用者に対しては不法占有であることは強く主張出来ないことを自認したことを裏書しているもので、本件の場合に於ても右土建協会の本件土地使用の権限は之を自ら主張するなれば之を裏書する証拠は充分に存在するものであるからその土建協会が本件の如く応訴するや直に被上告人の請求を全面的に認諾するが如き挙動は不可解千万であるのであり他方国たる被上告人としても苛も公益の代表者であるから、自らの権利の主張に際して善良なる国民の権利を軽々に侵害すること全く権利濫用と称せられるべきであるにも拘らず原判決がこの挙に出でなかつたことは原判決に理由齟齬ありと称すべきである。

附属書類

一、青写真 二葉<省略>

一、完成予想図 一枚<省略>

以上

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